1.患者様の悩み・施術内容
今回ご紹介するのは、約1年前から左の肘から前腕にかけての痛みに悩んでいた60代男性の症例です。
来院時に詳しくお話を伺うと、左腕には「ズキズキする鋭い痛み」というよりも、だるさを伴うような痛みを感じていました。特に物を持つと症状が強くなり、身体が疲れているときや、腕が冷えたと感じるときにも痛みが悪化するとのことでした。
一方で、腕を休ませると痛みは弱くなるという特徴がありました。
肘から前腕にかけての痛みは、仕事や家事、物を持つ動作など、日常生活のさまざまな場面で負担になりやすい症状です。特に症状が長期間続いている場合には、単純に「筋肉がこっている」と決めつけるのではなく、どの場所が痛むのか、どのような動作で痛みが出るのか、安静時にも痛むのか、しびれや筋力低下を伴っていないかなどを確認することが大切です。
今回も、痛みが約1年間続いていること、物を持つことで悪化すること、疲労や冷えによって症状が強くなること、休むと軽減することなどを確認しながら身体の状態をみていきました。
当院では、東洋医学的な身体の捉え方も参考にしながら、この患者様には**「気を補うことを目的とした施術」**を行いました。これは当院における東洋医学上の施術方針を示す表現であり、特定の医学的疾患の原因が「気の不足」であるという意味ではありません。
また、左肘から前腕周辺の筋肉に対しては、過度な刺激を加えず、局所の循環や筋肉の状態を考慮した施術を行いました。
施術後の状態を毎回確認し、その時点の症状に合わせながら施術を継続しました。
2.左肘から前腕にかけての痛みについて
左肘から前腕にかけての痛みとは
肘から前腕にかけての痛みは、肘関節そのものだけでなく、肘の周囲に付着する筋肉や腱、神経など、さまざまな組織が関係して起こります。そのため、「肘が痛い」という情報だけで原因となる病気を特定することはできません。
例えば、肘の外側から前腕にかけて痛みがあり、物を握ったり持ち上げたりすることで症状が強くなる代表的な病態として、**上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)**があります。日本整形外科学会でも、物をつかんで持ち上げる動作などで肘の外側から前腕に痛みが生じることが特徴として示されています。
ただし、肘から前腕に痛みがあるからといって、すべてが上腕骨外側上顆炎というわけではありません。最新の上腕骨外側上顆炎診療ガイドラインでは、診断には痛みの場所や圧痛、抵抗を加えて手首を動かした際の疼痛などの所見が重要とされています。
今回の患者様については「左肘から前腕にかけて痛む」「物を持つと悪化する」という情報がありますが、痛みが肘の内側か外側かといった情報や整形外科的な検査結果は治療経過のメモには記載されていません。そのため、本症例紹介では上腕骨外側上顆炎など特定の病名を断定せず、「左肘から前腕にかけての痛み」の症例として紹介しています。
左肘から前腕にかけて痛みが起こる原因
肘から前腕にかけて痛みが起こる原因は一つではありません。
特に、手首や指を動かす筋肉の多くは前腕にあり、その一部は肘周辺から始まっています。そのため、物を握る、持ち上げる、手首を動かす、前腕をひねるといった動作を繰り返すことで、筋肉や腱に大きな負荷が加わることがあります。
上腕骨外側上顆炎については、反復する把持動作や持ち上げ動作などによって前腕の筋肉・腱に負荷が加わることが症状に関係すると考えられています。一方で、日本整形外科学会は、その病態や原因については十分に分かっていない部分もあると説明しています。したがって、「使いすぎだけが原因」と断定することも適切ではありません。
今回の患者様では、物を持つと悪化し、休むと痛みが弱くなるという経過が確認されています。この事実から、腕を使用する際に加わる負荷と症状との間に関連があったことは分かります。ただし、それだけで原因となった組織や疾患を確定することはできません。
また、「疲れると悪化する」「冷えると悪化する」という訴えもありましたが、これらはあくまでも今回の患者様が経験していた症状の変化です。冷えそのものが今回の腕の痛みの医学的原因だったと断定できる根拠はありません。
長く続く肘や前腕の痛みでは、症状の出方や痛む場所、動作との関係などを丁寧に確認したうえで、それぞれの状態に合わせて対応することが重要です。
左肘から前腕に痛みがあるときにやってはいけないこと
肘から前腕にかけて痛みがあるときに注意したいのは、強い痛みを我慢しながら、同じ負荷を繰り返し続けることです。
特に握る、持ち上げる、ひねるといった動作によって明らかに痛みが強くなる場合には、一時的に作業量や負荷を調整することが選択肢になります。上腕骨外側上顆炎などの外側肘痛では、握る動作や持ち上げ動作、反復する手首の動作によって症状が悪化しやすいことが知られています。
ただし、反対に**自己判断で長期間まったく腕を動かさないことも勧められません。**痛みの程度に応じて負荷を調整しながら、必要な動きを維持するという考え方が一般的です。短期間の活動量調整で痛みが軽減することはありますが、完全な安静が常に必要なわけではありません。
また、「年齢のせい」「使いすぎだろう」と自己判断し、長期間続く症状を放置することにも注意が必要です。
症状が強くなっている場合や、外傷後の強い痛み、著しい腫れ、しびれ、感覚の異常、明らかな筋力低下などを伴う場合には、鍼灸だけで対応しようとせず、整形外科など医療機関で原因を確認することが重要です。
特に長期間続く症状では、痛みを我慢して使い続けるのでも、必要以上に怖がって全く動かさないのでもなく、状態を確認したうえで適切に負荷を調整することが大切です。
3.施術経過と結果
今回の患者様には、来院時の状態を確認しながら、当院の東洋医学的な考え方に基づく気を補うことを目的とした施術と、左腕の筋肉の循環や状態を考慮した施術を行いました。
1回の施術ですべての痛みがなくなったわけではありません。
施術を継続しながら経過を確認したところ、3回目の施術後には左肘から前腕にかけての痛みが軽減しました。
その後も状態を確認しながら施術を続け、7回目の施術時点で、当院の施術記録上は痛みがなくなり、治癒として施術を終了しました。
今回の経過は、
初回来院時:左肘から前腕に約1年間続く痛み
→ 3回目の施術後:痛みが軽減
→ 7回目の施術:痛みが消失し施術終了
というものでした。
ただし、これはあくまでも今回の患者様一人の経過を記録した症例です。
肘や前腕の痛みは原因や病態、症状が続いている期間、日常生活で腕に加わる負担などによって経過が異なります。また、一般に症状は自然経過によって変化する場合もあります。そのため、この症例だけから「鍼灸を7回受ければ同じように治る」「鍼灸だけが痛みを改善させた」と結論づけることはできません。
施術回数や改善までの期間には個人差があります。
4.担当者からのメッセージ
肘から前腕にかけての痛みは、物を持つ、荷物を運ぶ、家事をする、仕事で手を使うなど、普段何気なく行っている動作で症状が出るため、長く続くと大きな負担になることがあります。
今回の患者様も、約1年間左腕の痛みが続き、特に物を持ったときや疲れたとき、冷えたと感じるときに症状が強くなっていました。
当院では、「肘が痛いから肘だけを施術する」と単純に考えるのではなく、いつから痛むのか、どんな動作で悪化するのか、休むとどうなるのか、どのような痛みなのかといった情報を確認しながら身体の状態をみていきます。
そのうえで、必要に応じて局所だけでなく全身の状態も確認し、できるだけ身体に負担の少ない施術を心がけています。
一方で、肘や前腕の痛みには筋肉や腱だけでなく、神経や関節などが関係する場合もあります。当院で対応することが適切ではないと考えられる症状については、医療機関での検査や診察が必要です。
「何となく腕がだるい状態が続いている」「物を持つと肘から前腕が痛む」「休めば楽になるけれど、使うとまた痛くなる」といった症状を長期間抱えている方は、痛みを我慢し続けず、一度身体の状態を確認することをおすすめします。
今回のような症例をご紹介する目的は、すべての方に同じ結果が得られるとお伝えするためではありません。実際にどのような症状で来院され、どのように状態を確認し、どのような経過をたどったのかを正確にお伝えすることで、鍼灸院を検討している方の参考にしていただくためです。
症状の原因や適切な対応は一人ひとり異なります。当院ではお話を丁寧に伺いながら、その方の状態に応じた施術を行うことを大切にしています。






