1.患者様の悩み・施術内容
今回ご紹介するのは、出産後に生理痛が起こるようになり、約1年間悩んでいた30代女性の症例です。
患者様は2年前に出産されました。その後、生理が再開してから、それまでとは異なり生理に伴って腹痛が起こるようになりました。来院時には、この状態が約1年間続いていました。
特に気になっていたのが、生理中だけではなく、生理が終わった後にも腹痛が起こることでした。また、月経に伴って倦怠感、頭痛、めまいが起こることがあり、普段から息切れや疲れやすさも感じていました。
生理痛というと「生理だから痛くても仕方がない」と考えてしまう方もいらっしゃいます。しかし、月経に伴う痛みが強い場合や、以前はなかった痛みが新たに出現した場合には、症状の経過を確認することが大切です。
今回の患者様は、出産後から新しく症状が現れており、生理後にも腹痛が続いていました。そのため、鍼灸施術だけで原因となる病気の有無を判断するのではなく、必要に応じて婦人科での診察を受けることが重要な症状であることを踏まえながら施術を行いました。
当院では、来院時の腹痛だけを見るのではなく、倦怠感、頭痛、めまい、息切れ、疲れやすさなども含めて身体全体の状態を確認しました。
東洋医学的な評価では、患者様にみられた状態を踏まえ、「気」と「血」を補うことを目的とした施術を行いました。
ここでいう「気」や「血」は東洋医学で用いられる身体の状態を捉えるための概念であり、西洋医学における特定の病名や血液そのものと同じ意味ではありません。当院では東洋医学的な考え方を施術方針の一つとして用いていますが、それによって婦人科疾患の診断を行うものではありません。
施術は生理が終わった後から開始しました。
1回の月経周期を1クールとして、1クールにつき4回の施術を行いました。最初の1クール終了後も状態を確認しながら施術を継続し、合計2クール、8回の施術を行いました。
2.生理痛について
生理痛とは
生理痛は、医学的には月経に伴って起こる痛みを指し、日常生活に支障をきたすほどの症状は「月経困難症」と呼ばれます。
日本産科婦人科学会の「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023」では、月経困難症は「月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状」とされています。月経に伴う症状は下腹部痛だけとは限らず、腰痛などを伴うことがあります。海外の産婦人科領域の情報でも、強い生理痛では頭痛、めまい、吐き気などを伴うことがあるとされています。
生理痛は、大きく機能性(原発性)月経困難症と器質性(続発性)月経困難症に分けて考えられます。
機能性月経困難症では、子宮内膜で作られるプロスタグランジンという物質が痛みに関係しています。プロスタグランジンは子宮の筋肉を収縮させる作用があり、その働きが強くなることで下腹部の痛みなどが起こると考えられています。
一方、器質性月経困難症では、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫など、婦人科領域の病気が背景に存在することがあります。そのため、以前にはなかった強い生理痛が現れた場合や、痛みが長期間続いている場合、生理期間以外にも痛みがある場合などには、「体質だから」と決めつけず、婦人科で原因を確認することが大切です。
今回の患者様についても、出産後に生理痛が始まったという経過だけから原因を特定することはできません。そのため、当院では「出産が生理痛の原因だった」とは判断していません。
生理痛の原因
生理痛の原因は一つではありません。
機能性月経困難症の場合には、子宮内膜から産生されるプロスタグランジンが重要な役割を持つことが分かっています。プロスタグランジンの作用によって子宮の筋肉や血管が収縮し、月経時の下腹部痛につながると考えられています。このため、医療機関ではプロスタグランジンの産生を抑えるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が治療の選択肢になります。
一方で、すべての生理痛を機能性月経困難症として考えることはできません。
例えば、**子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などの病気によって生理痛が起こることがあります。**特に痛みが以前より強くなっている場合や、生理が終わっても痛みが続く場合などでは、器質的な原因がないか確認することが重要です。
子宮内膜症についても、月経に関連した痛みによって日常生活や生活の質が低下している場合は、疑うべき症状の一つとされています。
今回の患者様には、腹痛に加えて倦怠感、頭痛、めまい、息切れ、疲れやすさがありました。しかし、これらの症状だけから原因を特定することはできません。例えば、息切れや疲れやすさ、めまいなどについても、さまざまな原因が考えられます。
そのため鍼灸院では、こうした症状を特定の病気と結びつけて断定するのではなく、症状の程度や経過を確認し、必要な場合には医療機関への受診を勧めることが重要だと考えています。
生理痛のときにやってはいけないこと
生理痛があるときに特に避けたいのは、強い痛みや以前とは違う症状を「いつもの生理痛だから」と長期間我慢することです。
生理痛の背景には、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などの病気が隠れている場合があります。特に、痛みが次第に強くなっている、日常生活に支障が出る、生理期間以外にも骨盤周辺の痛みが続くといった場合には、婦人科への相談が重要です。
また、自己判断だけで薬を使い続けるのではなく、症状が十分に改善しない場合には医療機関へ相談してください。
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、機能性月経困難症に対してNSAIDsなどの鎮痛薬による治療が推奨され、十分な効果が得られない場合には、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬やプロゲスチン製剤、レボノルゲストレル放出子宮内システムなどが治療選択肢として挙げられています。
「薬を使わず我慢した方が身体によい」という医学的根拠はありません。痛みが強い場合には、医師や薬剤師に相談しながら適切に対処することが大切です。
さらに、生理痛について「冷えがすべての原因」「血流を良くすれば必ず改善する」など、一つの原因だけで説明することも適切ではありません。月経痛には複数の原因があり、特に新しく生じた痛みや長引く痛みについては、まず原因を確認する視点が重要です。
3.施術の経過と結果
今回の患者様には、生理後から施術を開始しました。
東洋医学的な身体の捉え方をもとに、気と血を補うことを目的とした鍼灸施術を行いました。
施術計画は、1回の生理周期を1クールとして考え、1クール4回としました。
1クール目
生理終了後から施術を開始し、次の生理周期までに合計4回の施術を行いました。
その都度、生理痛だけではなく、倦怠感、頭痛、めまい、息切れ、疲れやすさなど来院時に確認されていた症状についても経過を確認しながら施術を進めました。
2クール目
次の周期についても同様に4回の施術を行い、合計8回となりました。
8回目の施術終了後には、患者様が訴えていた生理痛などの症状がみられなくなったため、今回の施術を終了しました。
当院では、この症例について「鍼灸を8回受ければ生理痛が治る」という意味では捉えていません。
生理痛の原因や症状の程度、年齢、月経周期、基礎疾患などは一人ひとり異なります。また、今回の内容はあくまでも一人の患者様の経過であり、同じ施術を行えばすべての方に同様の結果が得られることを示すものではありません。
4.治療結果
今回の患者様は、出産後に生理が再開してから約1年間、生理中および生理後の腹痛に悩んでいました。
また、倦怠感、頭痛、めまいが起こることがあり、息切れや疲れやすさも感じていました。
生理後から施術を開始し、1周期4回の施術を2クール、合計8回の施術を実施しました。
その結果、8回目の施術後には来院時に訴えていた症状がみられなくなり、今回の施術を終了しました。
なお、鍼灸による月経困難症への効果については研究が行われていますが、研究方法や対象者などに違いがあり、個々の症例の改善をそのまま一般化することはできません。そのため、本症例についても「気や血を補ったことが医学的に生理痛を治した」といった因果関係を断定することはしていません。
今回確認できた事実は、約1年間続いていた症状を持つ患者様に対して8回の鍼灸施術を行い、その後、患者様が訴えていた症状がみられなくなったという経過です。
5.担当者からのメッセージ
生理痛は珍しい症状ではありません。そのため、「みんな痛いから」「生理だから仕方がない」と我慢してしまう方も少なくありません。
しかし、生理痛の程度には個人差があります。
特に、以前にはなかった生理痛が起こるようになった、生理のたびに痛みが強くなっている、生理が終わっても腹痛が続く、日常生活に支障が出るほど痛いといった場合には、婦人科で一度相談することをおすすめします。
生理痛の背景に子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などが存在する場合があるためです。
鍼灸院でできることと、病院・クリニックでなければできないことは異なります。当院では、すべての生理痛を鍼灸だけで対応しようとは考えていません。症状の経過を丁寧に確認し、医療機関での検査や治療が必要と考えられる場合には、適切な受診を優先することが大切だと考えています。
一方で、病院での治療を受けながら身体の状態を整える方法を探している方や、生理に伴うさまざまな不調について鍼灸を選択肢の一つとして検討されている方もいらっしゃいます。
今回の患者様の場合は、出産後に始まった生理痛だけではなく、倦怠感、頭痛、めまい、息切れ、疲れやすさなども確認しながら、東洋医学的な考え方に基づいて施術を進めました。
同じ「生理痛」という症状であっても、その経過や身体の状態は一人ひとり異なります。
当院では、お話を丁寧に伺いながら現在の状態を確認し、その方に合わせた施術を心がけています。
「以前はなかった生理痛が続いている」「生理のたびに腹痛や体調不良がつらい」などのお悩みがありましたら、一人で我慢を続けず、まずは婦人科などの適切な医療機関へ相談し、そのうえで鍼灸も選択肢の一つとしてご検討ください。
※本記事は一症例の経過を紹介したものであり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。また、鍼灸院では子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などの医学的診断はできません。症状が強い場合やこれまでと異なる症状がある場合は、医療機関を受診してください。






