1.患者様の悩み・施術内容
今回ご紹介するのは、3年ほど前から肩甲骨の間の痛みに悩まれていた30代男性の症例です。
来院時に特につらいと訴えられていたのが、左右の肩甲骨の間に感じる、だるさを伴った痛みでした。症状は日中だけではなく夜になると強くなる傾向があり、痛みが気になって十分に休めず、睡眠の質も低下していました。
また、朝起きたときにも肩甲骨の間に痛みが残っており、その影響で首を動かしにくい状態でした。肩甲骨周辺の症状以外にも、めまい、ドライアイ、息切れを感じることがあるとのことでした。
背中や肩甲骨周辺の痛みは、筋肉や関節などの運動器に由来する場合があります。日本整形外科学会では、首から肩、背中にかけての張りや痛みには僧帽筋など複数の筋肉が関係し、首や背中が緊張する姿勢、長時間同じ姿勢を続けること、運動不足などが原因になることがあると説明しています。
一方で、背中の痛みにはさまざまな原因があり、症状だけから原因を決めることはできません。特に夜間の強い痛みや日常生活に支障を及ぼす痛みについては、医学的な評価が重要とされています。
そのため当院でも、「肩甲骨の間が痛いから肩周辺だけを施術する」という考え方ではなく、症状の経過や体調について確認したうえで施術方針を検討しました。
今回の患者様に対しては、東洋医学的な身体評価に基づき、「腎虚(じんきょ)」を考慮した施術を行いました。
ここでいう腎虚は、現代医学における腎臓病を意味する言葉ではありません。東洋医学で身体の状態を捉える際に用いられる概念の一つです。また、「肩甲骨の間の痛みの原因が腎虚だった」と医学的に証明されたという意味でもありません。当院では東洋医学的な評価を施術方針を決めるための一つの考え方として使用しています。
2.肩甲骨の間の痛みについて
肩甲骨の間の痛みとは
肩甲骨の間の痛みとは、左右の肩甲骨に挟まれた背中の上部から中央付近に、痛み、重さ、だるさ、張りなどを感じる状態を指します。
肩甲骨の内側や周辺には、僧帽筋、菱形筋など、姿勢の維持や肩甲骨の動きに関係する筋肉があります。首や肩、背中はそれぞれ独立して動いているわけではないため、首を動かしたときに肩甲骨周辺が痛んだり、反対に背中の筋肉の緊張によって首を動かしにくいと感じたりすることがあります。
日本整形外科学会では、「肩こり」の症状として首すじや首の付け根から肩、背中にかけて張りや痛みが生じることがあり、特に僧帽筋が関係することが多いと説明しています。
ただし、「肩甲骨の間が痛い」という症状そのものは病名ではありません。筋肉や関節などに由来する場合だけでなく、頚椎や神経に関連する場合、まれには背骨以外の病気によって背中に痛みを感じる場合もあります。そのため、痛みの場所だけで原因を判断することは適切ではありません。
また、痛みが続いている期間、痛みが出る時間帯、身体を動かしたときの変化、しびれや筋力低下などの有無、発熱や体重減少といった症状がないかなどを確認することが重要です。医学的な背部痛の評価でも、痛みの性質、発症時期、持続期間、部位、時間帯、動作や姿勢との関連、随伴症状などを詳しく確認することが推奨されています。
今回の患者様の場合は、3年間続いていることに加え、夜になると痛みが増すこと、睡眠にも影響していること、朝には首を動かしにくいことが特徴でした。このように長期間続く症状では、「いつもの肩こりだろう」と決めつけず、症状の経過を丁寧に確認することが大切です。
肩甲骨の間の痛みの原因
肩甲骨の間の痛みには複数の原因が考えられるため、症状だけから原因を一つに決めることはできません。
比較的よくみられるものとしては、首や背中の筋肉に負担がかかる姿勢、長時間同じ姿勢で行う作業、運動不足などがあります。日本整形外科学会では、首や背中が緊張する姿勢、猫背や前かがみの姿勢、運動不足、長時間同じ姿勢を続けることなどが、首から肩、背中にかけての張りや痛みに関係することがあるとしています。
例えば、デスクワークやパソコン作業などで長時間同じ姿勢を続けていると、頭や腕を支えるために首から肩甲骨周辺の筋肉が働き続けます。このような状況が痛みや張りに関係するケースはあります。
しかし、すべての肩甲骨間痛が筋肉の疲労によるものとは限りません。頚椎など脊椎に関連する疾患、神経の問題などでも背中周辺に症状が現れることがあります。また、背中の痛みでは、頻度は高くないものの、肺や消化管など脊椎以外の病気についても必要に応じて考慮されます。背部痛の医学的評価では、咳、呼吸困難、消化器症状、発熱、体重減少、神経症状などの有無を確認することが重要とされています。
今回の患者様には肩甲骨間の痛みに加えて、めまい、ドライアイ、息切れがありました。ただし、これらを肩甲骨の痛みと同じ原因で起きていると判断できる医学的根拠はありません。そのため、本症例でも「肩甲骨の痛みが息切れを引き起こしていた」「腎虚によってすべての症状が起きていた」といった断定は行いません。
特に息切れには多くの原因があります。安静時の息切れや胸部の不快感、動悸などを伴う場合には速やかな医学的評価が必要とされています。
長く続く背中の痛みでは、一つの原因に決めつけず、必要に応じて医療機関で検査を受けることも重要です。
肩甲骨の間が痛いときにやってはいけないこと
肩甲骨の間が痛いからといって、原因を確認せずに「単なる筋肉のこり」と自己判断してしまうことには注意が必要です。
特に、強い夜間痛、発熱、原因不明の体重減少、手足の筋力低下や感覚異常などを伴う背部痛は、医療機関での評価が必要になる場合があります。医学的な背部痛の評価でも、重度の夜間痛や生活に支障を来すほどの痛みは注意すべき所見の一つとされています。
また、首から背中の痛みとともに、突然の呼吸困難や胸部の不快感などが現れた場合も、肩こりと自己判断して様子を見るのは適切ではありません。首の痛みの評価においても、胸部不快感や突然の呼吸困難は注意すべき症状とされています。
一方で、重篤な疾患が否定されている筋骨格系の痛みについて、痛みを恐れて長期間まったく身体を動かさないことも一般的には勧められていません。背部痛に対する医学的な解説でも、必要に応じて短期間活動量を調整することはあっても、長期間の床上安静は有益ではないとされています。
無理に痛みを我慢して強い運動やストレッチを行うことも避けた方がよいでしょう。身体を動かす場合には症状の変化を確認しながら行い、痛みが明らかに増える動作を繰り返さないことが大切です。
特に数週間以上痛みが続いている場合や、今回の症例のように数年間にわたって症状が続いている場合には、「そのうち治るだろう」と長期間放置するのではなく、一度原因を確認することをおすすめします。
3.施術経過と結果
今回の患者様には、東洋医学的な身体評価を行ったうえで、腎虚を考慮した鍼灸施術を継続しました。
前述したように、東洋医学でいう「腎」は、現代医学における腎臓そのものと同じ意味ではありません。また、腎虚が肩甲骨間痛の医学的原因であると証明されているということでもありません。当院では、東洋医学独自の身体の捉え方に基づいて施術方針を組み立てています。
施術を重ねながら症状の変化を確認していき、6回目の施術時には、3年間続いていた肩甲骨の間の痛みがなくなったことを患者様から確認できたため、この症例では施術終了となりました。
なお、これは今回の患者様にみられた個別の経過です。鍼灸施術に対する反応には個人差があり、同じような症状であっても必要な施術回数や経過が同じになるとは限りません。
また、本症例の経過だけをもって「腎虚への施術によって肩甲骨間痛が治る」「6回施術すれば改善する」と一般化することはできません。症例紹介は、あくまで当院で実際にみられた一例としてご覧ください。
4.担当者からのメッセージ
肩甲骨の間の痛みは、「肩こりの延長だろう」と考えて我慢している方も少なくありません。しかし、背中の痛みにはさまざまな原因があり、痛む場所だけで原因を判断することはできません。
特に、症状が長期間続いている場合、夜間にも強く痛む場合、睡眠や仕事など日常生活に影響している場合には、身体の状態を一度詳しく確認することが大切です。
今回の患者様も、肩甲骨の間のだるさを伴う痛みが約3年間続き、夜間には症状が増し、睡眠の質にも影響していました。さらに朝には痛みによって首を動かしにくい状態でした。
当院では、痛む場所だけを見るのではなく、いつから症状があるのか、どのようなときに強くなるのか、日常生活にどの程度影響しているのか、ほかにどのような体調の変化があるのかなどを確認しながら施術方針を検討します。
鍼灸がすべての肩甲骨周辺の痛みに適しているわけではありません。症状によっては医療機関での診察や検査が優先される場合もあります。特に突然の強い背中の痛み、呼吸困難や胸部の不快感、発熱、手足の筋力低下などがある場合には、鍼灸院への来院より先に医療機関への受診をご検討ください。
長く続く肩甲骨の間の痛みにお悩みの方は、「ずっと続いているから仕方がない」と決めつけず、まず現在の身体の状態を確認することが大切です。当院でも、安全性を大切にしながら、一人ひとりの症状や経過を確認したうえで施術を行っています。
※本ページは一症例の施術経過を紹介するものであり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。






